人は、痛みを忘れる生き物。
出産前に、人から聞いていた話。死ぬほど痛い経験をして、もうこんな経験は嫌だと思っても、時間が経つとその痛みすら忘れてしまうらしい。
本当にその通りだと思った。
出産という人生最大の痛みの中で、なぜ人類は滅びないのかと不思議でしかたがなかった。
その日の夜は、その痛みを思い出して泣けた。
遅めの夕食も食べたし、助産師さんに付き添われてトイレにも行けたのに、夜はなかなか眠れなかった。でも翌日からは母子同室で、赤ちゃんのお世話が始まる。早く早く我が子に会いたいと、気持ちが高揚していた。
次の日、赤ちゃんに会えるのは午前11時。
担当してくださる助産師さんが、赤ちゃんが入った透明のプラスチックのベッドを持ってきてくれた。そのまま初めての授乳室へ。
何度も何度も赤ちゃんの顔を覗き込む。
「ああ、昨日私のお腹から出てきた子は、間違いなくこの子だ。」
その日から、3時間ごとの授乳におむつ替え、間の時間に食事やシャワーや睡眠という生活が始まった。
授乳が思っていた以上に難しかった。
赤ちゃんも私も、全くの素人。下手っぴ同士で試行錯誤。1時間もかけて1日8回も授乳する。昼も夜も関係なく。
夜中起きるのは辛かった。
でもこれが不思議なんだ。
その天使のような顔を見るだけで、眠気を忘れる。
赤ちゃんの持つ、ものすごいパワーを感じる瞬間だった。
そういうことか…1週間後、退院する頃にはもうあの痛みのことを忘れかけようとしていたんだろう。(それでもまだ覚えていたけど。)
でも子育てが始まって、自分も、周りの人間も、赤ちゃんの存在があるだけで幸せになれる。
何も1人でできないこの小さな命、周りを一瞬で笑顔にするこのパワー。
そうか、だから兄弟が産まれ、人類は増え続けているのか。
人は痛みを忘れる生き物。
だから今日も世界中で新しい命が誕生している。
同時に、戦争や紛争も絶え間なく起こっている。
忘れないように、日々思い出すことだ。
痛みは、痛みを感じた人間を強くする。そしてその記憶は明るい未来を造る。
大変な思いをして産まれてきた我が子、大事に、大切に、育てていこう。
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